今回のお客さまの話は風俗店が初めてだという方。
Nのいる五反田の風俗店へやってきた。Nが接客するお客さんはご新規さんが多い。
高級店に来るだけあって、やはり紳士的ではある。見た目は40代だろうか。お金にギラついた中高年のお客さんではなく、好青年といった感じだ。
N自身が36歳。実はサバよんで27歳でお店に出て接客をしている。それはよくある話だ。
まあ、Nが相手にするお客さんはこのいわゆる「高級店」へ来るのが大抵初めてという「新規」のお客さんを相手にすることが多いので、次へ来てもらえるようNは精一杯のことをお客さんの希望に合わせて丁寧に対応させていただくのがモットーだった。
もう一つNにはモットーがあった。それは高いお金をいただくのだから、楽しく遊んでいってもらうこと。お客さんの中には話すことが好きな方がわりと多かったように思う。
今回のお客さんもその一人だった。
ホテルの一室でお客さんとの会話が途切れ静まり返った時、そのお客さんは言った。
「シュールな世界だよね」
Nは、その言葉が印象的だった。シュールな世界……。
確かにそうかもしれない。一見華やかに感じるこの世界。いや、Nには華やかさなど感じない。なぜなら、お客さんは欲望を満たすために隠している性癖をこの場所で思いっきり吐き出して帰るからだ。何事もなかったかのように。また仕事に戻ったり、家族の元へと帰っていく。
隠された欲望だけがこの場所に残されていく。そんな世界を「シュールな世界」というのはまさに当てはまる言葉だと思う。
Nはこう答えた。「そうですね。でもシュールだなんて、他のお客さんはもちろん誰も考えていないでしょうね。どんな気持ちでここにきているのか。例えばお金を散財することで気分良くなっているのかもしれないし、やっぱり自分の欲望を叶えたい、性欲を満たしたい方が多い世界なのかもしれないし。欲望は人それぞれですよね」
なんだか話をしていて、ほっとする気持ちにさせてくれる方だった。欲望よりも思考が動き出す感じ。なかなかいないお客さんかもしれない。果たして、この方はまたこの店に来てくれたのだろうか。
Nは私がいない時に来たかもしれないし、もう2度と来ない可能性もあるなど少し気掛かりになっていた。
彼にとって、シュールな世界は気に入ってくれただろうか……。
