フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(11)

「あけろよ!」

怖い。警察に電話しよう。握りしめた携帯で110番通報した。

「いいから早くあけろ!」

今度はドアを蹴ってきた。

どうすることも出来ず、仕方なくドアを開けた。彼は案の定部屋へ怒鳴り込んできた。

しかし、彼の横柄な態度に、だんだんと頭にきた私は、思わず怒鳴り返し、頬を引っ叩いた。

彼はさらにキレた。私の頭を殴り、ベッドに押し倒し、首を絞めてきた。

殺される……。どうなってもいい。私ももうまともでなくなっていた。

「殺せばいいでしょ!」

「心配するな。この程度じゃ死にゃあしないよ」彼はそう言って鼻で笑った。

すると、家に警察官が来た。

私は警察官に「この人を訴えたいんです」と言うと「事情は署で聞きます。あなたはいいですか?」彼に動意を求めると、「はい、構いません」彼は淡々と言うと、私と彼は別々に話を聞かれることになった。

私はマスクをし、警察へ行った。警察署のフロアの奥にある狭い一室に通された。年配の警察官と女性の警官が私がまるで、悪いことをしたかのように冷ややかなな質問をしてきた。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(10)

彼にやっと電話が繋がった。

クレジットカードの件を話した。彼はイラついた様子で、闇金融の会社と「私のせい」にしてきた。確かに私は一度、カードのキャッシングの限度額30万円を貸して欲しいと言う申し出を断った記憶があった。

私のせい?!当たり前のことをしただけだ。

私は、彼が謝り、お金を返してくれることを期待し、話をしたかったのだ。

それだったら、私は、理由によっては代わりに80万円を彼のために返そうとしたのだ。それが、私のせいだなんて。

「とんでもない!どうして私のせいなの?!」私は思わず声を荒げた。

「社長がお金を持って逃げたから、お金が手に入らない」その一点張り。

なんだか、上司の奥さんが病気だという話も、すべて嘘のように思えてきた。

「本当に社長は逃げたの?上司の奥さんは本当に病気なの?」

彼は怒鳴り出した。「そうだって言ってるだろ!何か?俺が嘘でも言ってるとでも思っているのかあ?」

「でも人のクレジットカードを盗んで80万円も使っていたなんて、犯罪です!」私も思わず頭にきて怒鳴ってしまった。

彼の話し振りは、ほとんどヤ●ザだった。

私は急に背筋が凍った。私は彼となんとか和解がしたかっただけなのだ。

でもやっぱり警察に届け出ればよかった。

「わかった。これから金もって家に行くから待ってろ」

彼は人が変わった。自分がしたことを棚にあげ、怒鳴り込んでくる勢いだった。

なぜ私が?なぜ私がこんな怖い思いをしなければならないのだろう。

しばらくすると、彼はインターホンも押さずにドアを叩いて来た。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(9)

利用明細はすべて、六本木ヒルズの駐車場になっていた。

恐怖の中で慌てて、カード会社に電話をした。

対応はこうだった。

「まずお客様が、カードを利用されたことを警察に通報してください。そうされましたら、ご利用額は補償させていただきます」

要は、他人のカードを勝手に利用したわけだから、窃盗になるんだよな。警察に言うのは簡単だけど、人を犯罪者にするのは、なんだか考えてしまう。

とりあえず彼にことの真相を聞かなきゃ。

だが、電話にいっこうに出ない。

諦めて考えた。ふと、彼のヤミ金会社の上司の奥さんの話を思い出した。

あの話が嘘だとしても、病気の人や、もらえる年金も少なく、しかたなくヤミ金業者からお金を借りているお年寄り、いわゆる「弱者」の身代わりになっているとしたら……。

彼の大変さに少し同情してしまった。

結局、警察には通報せずに、代わりに貯金で支払うことにし、彼から少しずつでもかえしてもらうことに決めた。

それだけ彼を信じていたのだ。

でもそれが裏切られるとは。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(8)

私は考えた。まず人にお金を貸すなんて考えられなかった。

でも、人の命がかかっている。

15万円なら、ヘソクリでなんとかなる。

私は、彼に貸すことに決めた。何度も言うが人の命がかかっている。もう仕方ない。彼を信じるしかないよね。

後日私は「例の」車の中で、彼に15万円を渡した。彼はものすごく感謝してくれた。私は人の命を救ったんだ、とちょっと得意げになってしまった。

「今月末には返すから」彼はそういうと、

「今晩ご飯でもどう?」

「珍しいね〜」私はそう言って笑ってしまった。

私たちは六本木の交差点にある焼肉店で食事をした。私の大好物のレバ刺しもご馳走になり、気分よく家に帰った。

家に帰ると、クレジットカードの明細書が届いていた。カードは使った記憶がないので、封を切らずそのままにしておいた。

数日後、またクレジット会社から何やら郵便物が届いていた。開けてみると、びっくり、と言うより、頭が真っ白になった。

何これ!!!

使っていないクレジットカードの請求金額は、80万円とあった。

息が止まるかと思った。

利用されているのはすべて……

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(7)

彼は五反田の事務所には帰ってこなかった。私は送迎の運転手に家まで送ってもらうことになった。

彼はどうしたんだろ。まあ、私が心配することじゃないね。そんなことを考えながら、やっと家に着くことが出来た。旦那は寝ていた。

次の日もその次の日も彼は会社に来なかった。

ある日の仕事の帰り道、彼は私をまるで見張っていたかのように、後ろから声をかけてきた。

あ、生きてたんだ。私はそんなのんきなことを考えた。彼に言われた通り、またあの走り屋の車に乗った。

なんだか、深刻そうな彼に不安を覚えた。彼は私に言った。

「お金貸してくれないかな」

は?お金?

「実はヤミ金の社長が消えたんだよ。給料も貰えなくなって。上司の奥さんが重病でお金が必要なんだ」

「……。いくらなんですか?」私は完全に信じていたみたいだ

「15万」

「返していただけるんですよね?他人にお金の貸し借りはしたことないので、あまり気が進まないのですが」

「必ず返す。今は、お世話にもなってるその奥さんを助けたいんだ。必ず返すから」

「ちょっと考えさせてください」旦那には言えない。そう思った。

フィクションかもノンフィクションかも知れない話。(6)

へ〜、こんなところにも風俗の事務所はあるんだ。私は、また中の様子が気になってきて興奮してきた。上に上がると、そこはやはり普通の会社のフロアだった。

いたのは、風俗店の経営者らしき人と側近のような人、そして電話をしている店番の店員3人だった。

女の子たちは恵比寿の店にいた子達とは違い、とても風俗嬢に見えない普通の子達だった。それどころか、とても品の良さそうな女の子もいて、場所によってどうやら女の子も変えているようだった。

私は黒い革のソファに座っていたら、何やら先の経営者らしき人と側近のような人が女性と会話をしている声が聞こえてきた。

女性は興奮しているようだった。

「申し訳ございません。その男でしたらもうここには出入りできないように、始末しましたから」

え?始末?男を始末?

「もう少し詳しくその時の状況を教えていただけませんか?」女性はどうやら店の店員の男に襲われたらしい。そして、引き抜きにあったようだ。

急に店番をしていた男が私の腕を掴んで、窓際に引っ張った。彼は私に言った。「男は処分されたんだよ。つまり殺された。海に沈められたんだ。この業界は女の子に手を出したらいけない。引き抜きなんてとんでもない。逃げても捕まるよ」

そんなことってあるの?それになんでこの人、私を窓際に引っ張るの?あ、監視カメラか。この場所は映らないんだ。

「この店で働くの?稼ぐ女の子だったら1日で10万円は稼ぐよ。毎日働きたいんだったら1日平均3〜5万円は稼げる。稼げるんだったらね」

そんなに稼げるんだ。「あそこにいる女の子たちはそんなに稼いでいるんですか?」私は思わず聞いてしまった。

「待機している女の子たちはちょっと下がるかな。ここは近くにあるラブホに女の子を派遣するんだよ。だから事務所に戻ってこないってことは次から次へと客相手だよ」

あ、なるほど。

「君さ、あの送迎の男と付き合ってんの?」

「いえ。なんでですか?」

「やめといた方がいいよ。めんどくさいことになると思うから。真面目そうに見えるけど、とんでもない男だよ」

経営者らしき男と、側近らしき男が会議室から戻ってきた。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(5)

車中、彼は何やらインカムで事務所とやりとりをしているようだった。

「ごめん、恵比寿の事務所に戻る」彼はいきなり言ってきた。

えーーっ!何時だと思ってるの。もう11時だよ……朝帰りだ……私は夫に怒られるのを覚悟した。それにしても、「あの」部屋であった出来事を彼に話すべきだろうか。揉め事になっても怖いな。頭の中はそれでいっぱいで、彼からの手紙など忘れていた。

事務所に戻ったら、電話番の男性は暇そうにしていた。

「あみちゃん、お疲れ〜。どうだった??あの客ね、あまり顔見せたがらないよね」「疲れた〜、でもいい人だよ。優しい人だった」

そんな会話をしていた。彼はといえば、事務所に戻ったかと思ったら、また出掛けるという。あの事務所にはいたくなかったから一緒について行った。

今度はどこ行くんだろう……

着いたのは高級マンションのそばで、彼は慌てて車から降りて行った。しばらく経っても帰ってこない。なんだか不安になってきた。

そうこうしていると、女の子と一緒に彼が車に戻ってきた。女の子は泣いているようで、私は嫌な予感がしてたまらなかった。

事務所に戻り、女の子は例のソファのある部屋に行った。

彼と私は車に戻った。彼は話し始めた。

「彼女、お客に襲われたんだよ。いきなり部屋に入るなり、後ろから犯された。俺言ったんだよね『警察に行くか、ここで詫びるために彼女にお金を払うか』そうしたら、お金払うって。彼女に10万円払った。あの野郎」

私はゾッとした。これが風俗の現実の一部なのかもしれない。おそらく彼女が警察に行ったところで、警察は相手にしないだろう。

なぜなら『合意』の上にあるからだ。そういう危険もあることを承知の上で彼女たちは仕事をしなければならない。二人っきりの部屋で何があったとしても、何度も言うが『合意の上』なのだ。

その話以降、私たちに会話はなかった。

気づくと恵比寿とは雰囲気が変わり、どこかの会社のビルの前で車は止まった。

ラブホテルも目立つ。そこは五反田だった。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(4)

女の子を車から降ろし、恵比寿のマンションへ戻った。

「降りて」彼はそう言うと、マンションの中に入るよう私を促した。

私に恐怖心はなかった。とにかくマンションの中がどんな様子なのか気になった。

中に入るとやはり恵比寿のマンション。当時で言ういわゆるデザイナーズマンションでおしゃれな部屋。そこには数人の女の子に一人の男性。男性は電話応対に追われていた。

彼はまた送迎へ向かった。

「すみません。あみちゃん、あと5分ほどで着きます。はい、はい。申し訳ございません。よろしくお願いしますーー」「はい、〇〇でございます……」ひっきりなしに電話はなっていた。

女の子を見ると、マニキュアをしている女の子、鏡を見ながら巻き髪にヘアスプレーをしている女の子。可愛い小柄の女の子に、色黒の女の子。

あ、この子は可愛いから人気ありそうだな。う〜ん、彼女は男ウケしないんじゃない?と私はつい失礼ながら女の子の品定めを始めてしまった。

そんなこと考えながら突っ立っていると、電話番をしていた男性が私を別室に案内してくれた。

「ここで待っていてください」

あ、そうよね、あまり中を見せてはいけないのか。そう思いながらもソファしかない部屋でポツンと取り残された。なんだか私は、性風俗の裏側に潜入取材に来たみたいだ。でもそれってあり得るのだろうか。

そんなことを考えながら、私は天井を見上げた。監視カメラだ。

私は監視されている。

それに気づいた私はやっと、来てはいけないところに来たんじゃないかと思いはじめた。

部屋が急に暗くなった。あたりは真っ暗。人の気配だけがする。

何されるのか?私は変な度胸が座っていた。じっと様子を窺っていた。

急に押し倒された。私は何も言わず抵抗し、押し返した。

人は去っていき、あかりがついた。私はまた監視カメラを見た。

なるほど、モニターに映らないために暗くしたのか。いったい誰だったのか。彼は戻ってきたようだった。やれやれ、帰れる。そう思いデリバリーヘルスの事務所を出た。

ところが事務所の前のエレベーターの前で、いつもの彼は落ち着かなさそうにしていた。

??

突然、彼は私に小さく折り畳まれた紙を渡してきた。

私は紙を広げるとそこには「不躾ですが、付き合ってください」と書かれてあった。

は?私、既婚者ですが??

「ここの店は、五反田にもあるんだ」

彼は、話を変えてきた。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(3)

「自分にはナンバー2が合ってるんだよ」

……?

「つまり、自分はリーダー格じゃなくてサブが合っているということ」

真面目な顔して言うこの人のこの言葉に、私はちょっと笑いそうになってしまった。自分で自分のこと、ナンバー2が合っているだなんて……。それにしてもこの人サブリーダーなんだ。

あの闇金融の集会から数日後、彼はまた私を誘ってきた。

「今夜空いてる?ちょっと帰りは遅くなるかもしれないけど、また一緒に来て欲しんだ」

もうジャンパーの苦しさは嫌だな。そう思いながらも、今度はなんだろうという興味が湧いてきた。

「いいですよ」そう言って私は夫に遅くなるとメールをした。

彼の車は、いわゆる「走り屋」仕様の車だった。マフラーの音が物凄い爆音をとどろかせていた。私はこの車に乗るのが少し恥ずかしかった。

今日はどこへ行くのだろう。車は恵比寿のマンションの前で止まった。

「あの車に乗り換えて」

また集金か??私は、大きなワンボックスカーに乗り換えた。彼はマンションへ入っていった。

しばらくすると、若いミニスカートを履いた今どきの女の子が彼とマンションから出てきて、後部座席に乗り込んできた。

誰?この女の子は??

何も喋らず、車を走らせた。5分から10分くらいだろうか、車は渋谷の住宅街で止まった。彼は何やら女の子に指示をしているかのようだった。

耳がダンボになる。なになに?何階の部屋番号?

「お客さんはインターホンを鳴らさないでって言っているから、ノックして。このお客さんの部屋は暗いから気をつけて入って」男は、女の子に話をしていた。

なるほど。私はなんとなく、この人たちがどんな仕事をしているのか、わかってきた。

デリバリーヘルスだ!この男、風俗嬢の送迎もしているんだ!私の勘は的中した。

フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(2)

闇金融のやりとりを見たことがある。今でこそ「オレオレ詐欺」だが、私が働いていた当時、今から10年以上前だろうか、当時は「闇金融」という言葉が流行っていた。

見たというより、やり取りの現場に行った。

いきなりこれだけじゃ何が何だかわからないと思う。ちなみに私は普通の専業主婦。私は闇金融にお世話になるようなことはもちろんしていない。

じゃあなんで、闇金融の仲間が集まる現場へ行ったのか。私が働いていた仕事場にいた男は、ごくごく普通のメガネをかけたサラリーマン風の男性だった。私はその男性と話す機会があり、ある日その男性の車に乗らせてもらう機会があった。

男性は、どこだかわからない団地へ一緒に連れて行った。

「ここで待ってて」

男性は車を降りると、団地の中へ姿を消した。何があるんだろう。何が何だかわからない私はとにかく彼を待つしかなかった。

しばらくすると、男性は戻ってきていきなりこんな話をし出した。

「おばあさんにお金を貸しているんだ。今日はその回収日。ちくしょう、1万5千円しか返してもらえなかった」

「……。」回収?

男性は続けた。「1万5千円しか返してもらえなくても、結局お金がないからまたウチからお金を借りるんだ。お得意さんだよ。お金を返してもらえない時は俺が払う時もある」

「おばあちゃんだから、話し相手にもなってる」

「……。」闇金だ。私は思った。

夕方のことだった。それからあたりはすっかり暗くなっていた。

「これから、会社の仲間で会うことになっているんだけど、一緒に来てくれないかな」

「え?」私は興味津々だった。闇金業者の集会??

「ただし、後ろの座席に隠れてて。見られたら半殺しだよ」

「は?」半殺し?何が何だかわからなくなった。もう引き返すことはできない。私は、後ろの座席に移った。

「それだけじゃだめ。これ被って」男からジャンパーを渡された。

「本当に見られないようにして。そしてこっちも見ないで」

私は、半殺しなんかになりたくないから必死になって後部座席で丸くなっていた。

「これからどこへ行くんだろう……」そう思いながら、揺られていた。

車が止まった。私の感だがどうやら駐車場のようだ。なるほど、駐車場に集まって、違う車に乗り込み話し合いをするらしい。

私は、さらに体を硬直させた。声が聞こえてきたからだ。こんなところで死んでたまるか。と思いつつ、恐怖というより、興味の方が強かった。どんな男たちがいるんだろう。どんなことを話しているのだろう。何人くらい?

そんなことを考えながら、丸くなっていたら疲れてきた。このまま車から降りて行こうか。いやいや、私はいいが(よくない)男性もおそらく危害が加えられるに違いない。

ジャンパーは息苦しくなり、早く解放されたくなった。

その後の男性は無口だった。

まさか、会社の同僚が闇金融の一味であるとは、誰が想像できるだろうか。

疲れ切った私も無口だった。