今回のお客さまはパークハイアットのスイートルームにお泊まりの常連さま。たまにはこんな日もある。
Nは、五反田の事務所から急いで送迎の車へ乗り込み新宿のパークハイアットへ向かった。着くと、一人の女性がNの乗った送迎の車を待っていた。
そう、一人120分、合計で4時間スイートルームで遊ぶお客さまなのだ。
一体どんな人物なのだろうか。
常連、という情報はもちろん店側が教えてくれる。Nは初めてだったのでとても興味があった。高級ホテルでどんな風に遊ぶのか。そのようなお金持ちがどんな会話をするのか。興味があったのは人物だけじゃなく、この五つ星ホテルのスイートルームがどんな部屋なのか。とにかく楽しみで仕方なかった。
ドキドキしながら部屋に入るとほとんど中は真っ暗だった。
どこに何があるのかなんて、外の夜景の明かりで見えるくらい。あまりジーッと見ているわけにもいかない。
なんとなくわかったのは、ひとつづつ部屋の扉があるわけではなく、一周ぐるりと部屋がつながっていることだった。ほとんど部屋を真っ暗くしていたので、おそらく一番広い部屋だとわかる場所にNは荷物を下ろした。
初めお客さまはどこにいるのかわからなかったが、バスルームの方から声がした。
Nは慌てて服を脱ぎ下着姿でバスルームを探した。
バスルームへ着くと、お客さまはバスタブに浸かりながらテレビを見ていた。
Nに入れという。Nは下着を脱ぎお客さまとバスタブに浸かった。前に来ていた女の子ともこんなことをしていたのだろうか。そんなことをNは考えながら、黙ってお客さまを見つめていた。
今回のお客さまは「お金持ちの貫禄」といったものはなく、50代前半ぐらいの小柄で痩せた方だった。
とはいえ、こんな高級ホテルのスイートルームで二人の女の子を呼んで遊んでいられるのだから、さぞかしいいご身分なのだろう。
でも、Nにとって「このお客さまは一体何が楽しいのだろう」そう考えるようになってきた。独り言の多い方で、テレビを見ながら何やら話をしていた。それがNに向けられた話ではないことに、少々つまらなさを感じていた。
時々Nは「私じゃつまらなかったかしら?」と思うくらい、お客は何も求めてくることはなかった。
その後、真っ暗の中ベッドルームへ案内されたが、Nが持ってきた道具は一切使わず、「遊び方」はいたって普通、という言葉が合っていたかもしれない。
ああ、お金持ちの方にたまにありがちな「本当の遊び方」を知らない人のようだ。すべてのお金持ちが「遊び上手」な訳ではないのだ。
Nの結論だった。こうやって、たまには外すこともある。
楽しみにしていた高級ホテルへの出張も暗闇の中であっけなく終わった。
それからというものNにとって、高級ホテルへ呼びたがるお客さまの時は残念なことが多かったために、あまり期待はしなくなっていった。
やっぱりいつもの安いラブホがいいんじゃないかしら。Nは思った。