フィクションかもノンフィクションかもしれない話。(番外編)

六本木から引っ越した私。ワンルームマンションでも3年近く住めば意外と大荷物になった。

新しい部屋は段ボールの山。しかし、片付ける気にはならなかった。あの忙しい街から、静かな住宅街に移り、なんだか気が抜けた。

半年もほとんどの段ボールに手がつけられなかった。

ただ一つ、布から剥き出しになっていた30万円のジゥラルミンケースだけが当時の生活を思い出させた。

そうだ、15万円で買ったエルメスのバックはどこにしまったっけ。ドルチェ&ガッバーナの高かった財布は?

私は突然ダンボールをあさり出した。

私が頑張って働いたお金で買った大切なもの。

しかし、あるはずのそれらは、どこを探しても出てこなかった。あーっ。私は怒りより先に肩を落とした。

そうか。あの男が私の目を盗んで、ダンボールから持ち出したのだ。

私のクレジットカードを使い込んだあげく、最後は高級品を盗んでいくなんて……。怒りというより、呆れて私はボー然としてしまった。

でも、お気に入りのものたちだったので、残念でならなかった。

あの男、最後の最後までやってくれたよな。

私はいまだに、一生ものだと思っていたエルメスとドルチェ&ガッバーナが忘れられずにいる。

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