『たとえば三浦和義の事件などは、考えれば考えるほど面白い。あの事件に対していろいろ批判はありますけれど、面白いということにかけては全く文句なく面白い。殺人、セックス、暴力、どんでん返し、謎解き、追いかけ……エンタテインメントの全ての要素が見事にそろったナマのドラマが、目の前でリアルタイムで進行していき、それをテレビカメラを通してウォッチできる。面白さにおいてこれを凌駕できるフィクションがあるか、ノンフィクションがあるかといったら、ありません(立花隆「僕はこんな本を読んできた」より引用)』
私が最近読んでいる立花隆さんの本からの引用である。
懐かしい。何が懐かしいって、1980年代に世間を騒がせたこの事件のことか。この人物、三浦和義のことか。この人物のこの事件はまさにこちらの立花さんが話したこと、そのものだ。そしてこの内容は1986年のものであるから、さらにこのノンフィクションは続く。続きが知りたい方はウィキペディアで「ロス疑惑」を検索してみてください。
この人物は最後の最後まで、不可解な行動で話題をさらい疑惑として幕を閉じている。
私が懐かしかったのは、この事件でもあるが、この人物三浦和義だった。
数回会った。
何年ごろあったかはあえて伏せることにする。私が出会った当時三浦は芸能プロダクションに所属していた。
友人が同じ事務所で、三浦を私に紹介してきた。三浦が生活の場にしていたのは赤坂にあるシティホテルだった。初めて会ったときは、部屋にルームサービスを呼び、お寿司を食べた記憶がある。
ホテルの中での三浦はまるで自分に気づいてほしいとばかりに、人と会うと堂々としていた。三浦に会うのはそのホテルで、数回会っては食事をした。
初めて会った時、三浦は私の住んでいる場所を聞いてきた。答えると「僕のいたところ(留置所)から近かったんだね」そういって笑った。その姿が少し異様だった。
食事での話題は、三浦がプロデュースだったか、監督だったか、をする映画の話だった。
2回ほど会った時だっただろうか。私は自分(三浦)のアシスタントとして一緒に現場に来てくれないかとお願いされた。
初め食事をしながらは考えた私は、三浦がただの芸能人でしかないように思ってならなかった。
だが、この男の正体を誰も知らない。
私は数日考え、何されるかわからない恐怖と予感が頭をよぎるようになった。
もちろん話は断った。
映画は、女優のH・Aが主役だったと思う。確か完成もした。朧げにテレビで見た記憶がある。内容は覚えていない。
友人に様子を聞かれた。三浦から友人には映画のアシスタントの話はしないでくれと言われていたので、その話には触れなかった。
「ねぇ、あの男、絶対人殺してるよね?」
「え、そうだね……」紹介してきたのは彼女だったから、私は深くは答えなかった。
そもそも、私のような一般庶民にとって、芸能界というところは謎が多いから、深入りしない方がいい世界なのかもしれない。そう思った。
ましてや、殺人を犯しているかもしれないわけのわからない人のことなんて。
女はいくらでもいるだろう。私は、関わることを一切やめた。
この話、フィクションなのか、ノンフィクションなのか、どちらなのか……。
