小説を書く。

「出会うことはなかったはず……」夜の銀座にいた占い師はそう言った。「何の接点もないんだよね。ほら、ここ。この中にあなたの行動範囲がないのよ。こんなに離れてる。手を出して」手を見せるなり占い師はおもむろに私の手をつかんで手相を見出した。「あ〜、あなたモテるね」私に見るよううながした。「ここの線が多いでしょ。これは持てる手相」「はい……」過去のことはどうでもいい。今を知りたかった。「それでね……。あ〜、彼頑固者で独立心が強いね。でも、バランスがよくってね、指導したり教育の仕事が向いてるね。それから、行動力があって、白黒はっきりしてるわ」「……」「彼は上品でまじめ。それからお人好しと出てる」それは合っているだろうか。それにしてもこの占い師のおばさんは結婚しているということをわかっているのだろうか。「彼のラッキーカラー、黒!」そして最後に「相性いいね」そう言って私の顔を覗き込んだ。最後の言葉は、誰にでも言っているんだろう。そう思いながらお金を払った。机の上をチラッといると、「横浜中華街」と書いてあった。おそらくそこに拠点を置く占い屋さんなんだろう。銀座は儲かるのだろうか。周りを見れば人影も、走る車も、少なかった。ついでだから占いのはしごをしてみた。

「12月7日から2月4日までは天中殺ね。これ毎年、12月7日から2月4日まではそうだから」「はい……」「受け身で行動してください」この占い師さんには伝えてみた。「結婚しています」気のせいだろうか。何だか、対応が素っ気なかった。「彼、自由人だね。あなたと彼は、行動範囲が全く違います。合わないよね」あまり良くない結果だったのか、さっきの占い師さんとは対応が全く違った。私も何だか早くその場から立ち去りたくて、お金を払ってさっさと席を立った。

別に占いをどれほど信じているわけではない。好きな人ができて、彼のことなら何でも知りたい!という女子高校生の気分と同じだろうか。その日はかなり疲れていたせいか、次の日は早く起きることができなかった。

天井の低い部屋だが、外からの日差しが冬の朝は眩しい。いったいどれだけの間、この感情を抱いて寝ているのだろう。おそらく、わかっている。みんなが私に言いたいことはよくわかっている。「でもこれは違う。そんな芸能人のゴシップのような扱いをしないで欲しい」もう5年も経つんだ。恋だの、愛だの、わかるはずもないのに、それが愛ってことだけは、理解できていた。

私は多くのことを知りすぎてしまったみたいだ。だからといって、気持ちを制御できるほど、私は利口な女ではなかった。

時に泣きたいほど辛かった思いは、楽しかったときより遥かに大きく、それでも私はその思いを宝物のおもちゃのように大切に抱え、幾つもの季節を見送った。

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